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弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー

【相談事例 目次】

相談事例

専用庭で野良猫に餌やりをする人がいるため猫が寄り付いて困っています。餌やりを禁止することはできますか。

篠原先生の回答

猫への餌やりに関する一つの参考判例として、東京地裁平成22年5月13日の判決があります。この裁判は、タウンハウスの自分の専用庭で猫に餌やりをしていた人に対して、管理組合と、同じタウンハウスに住んでいる他の住民が、猫の餌やり禁止とその猫による糞尿被害についての、損害賠償を求めた裁判です。判決では、被告の屋外での餌やり行為は、原告管理組合の規定する動物飼育禁止条項又は迷惑行為禁止条項に違反するとして、敷地等における猫への餌やり行為の差止めを認めるとともに、被告の同行為につき受忍限度を超える違法なものと認めて、損害賠償請求を一部認めました。このタウンハウスの管理組合は、もともと管理規約の一般的禁止事項として、「他の居住者に迷惑を及ぼすおそれのある動物を飼育しないこと」と定められていたこともあり、このような判決になったとも考えられますが、動物飼育規定の有無に関わらず、その餌やりが原因で糞尿被害、植栽の破損、鳴き声の騒音被害、また子猫の増加など具体的に被害を被っている事実がある場合は、この判例を参考に猫への餌やりの差止めを求めることができると考えられます。

【参考】

判例
東京地裁 平成22年5月13日 平20(ワ)2785号
<要旨>
タウンハウスの一部区分所有者である被告が、複数の猫に継続的に餌やりを行ったため、糞尿等による被害を被ったとして、本件建物の原告管理組合及び同建物の区分所有者である個人原告らが、本件建物の敷地等での猫への餌やりの差止めを求めるとともに、個人原告らが損害賠償を求めた事案において、本件で、被告は屋内で1匹を飼育し、本件土地上の屋外で4匹に餌をやっていると認められるところ、被告の屋内飼育行為は、原告管理組合の規定する動物飼育禁止条項に違反し、屋外での餌やり行為は動物飼育禁止条項又は迷惑行為禁止条項に違反する上、本件屋外飼育等は、個人原告らの人格権を侵害するものであったとして、本件敷地等における猫への餌やり行為の差止めを認めるとともに、被告の同行為につき受忍限度を超える違法なものと認めて、損害賠償請求を一部認めた事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

上階の子供が飛び跳ねたり走りまわる音が気になるとの苦情がありました。
このような上下階の騒音問題に対し管理組合はどのように対処するべきでしょうか。

篠原先生の回答

最近のマンションは、床がフローリング仕上げとなっている部屋が多くなっていることもあり、カーペットや畳敷きの床に比べて階下への騒音(床衝撃音)が問題になることがあります。特に、ご相談の事例のように子供の走りまわる音や、椅子の移動音、ドアの開け閉めの音などが騒音問題に発展する例も少なくありません。しかし、上下左右が、天井・床・壁で仕切られているだけのマンションでは、多少の「生活音」がするのは、構造上ある程度は仕方のないことです。
音の問題はとてもデリケートな要素が多く、人によって感じ方も違います。ある人にとっては「うるさく感じる音」でも、別の人にとっては「そう気にならない音」ということもあります。基本的に騒音問題は、「音を出している人」(加害者)と「それをうるさいと感じる人」(被害者)との当事者間の問題です。被害を受けている方から、音の発生源の方へ改善してもらうよう話してもらうことが望まれますが、近所付き合いの関係で言いにくいというケースもあるでしょう。管理組合としてできることは、掲示板等で音に関する生活上の注意を促すことくらいではないでしょうか。間に入ったとしても、双方にとって納得のいく解決をはかることが難しいのが現実です。また、感情の要素も大きいため、人間関係がこじれると問題の解決が余計に難しくなりますので、安易に行わない方がよいでしょう。しかし、その騒音に対し、まわりの住戸からも同じように苦情がある場合は、共同利益背反行為に該当するとして管理組合として対処すべき問題となります。騒音については、受忍限度を超えるか否かがその違法性を判断する基準になります。受忍限度とは、「社会生活を営む上で、騒音・振動などの被害の程度が、社会通念上我慢できるとされる範囲」のことです。マンションの騒音に関する判例は、いくつかありますので、参考にするとよいでしょう。また、挨拶や会話で上の階と下の階の方がお互いにコミュニケーションをとることで解決に向かうこともありますので、日ごろからマンション内の挨拶を奨励するような雰囲気作りも大切かと思います。

【参考】

判例
東京地裁 平成6年5月9日 平3(ワ)10131号
<要旨>
マンションの居室をフローリング床にしたことによって発生した生活音等が受忍限度の範囲内であるとして不法行為に当たらないとされた事例。
東京地裁 平成19年10月3日 平17(ワ)24743号
<要旨>
マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認容された事例。
東京地裁 平成24年3月15日 平20(ワ)37366号
<要旨>
分譲マンションの1室に居住する原告らが、同居室の階上の居室を所有する被告に対し、被告の居室から発生する騒音の差止め及び損害賠償を求めるなどした事案において、原告らの居室で聞かれる衝撃音は、子供の体重に近い重量物を高さ1m程度から落下させた時の床衝撃で発生する重量衝撃音に該当し、同衝撃音は被告の子の飛びはね等によるものと推認できるところ、これが生活実感としてかなり大きく聞こえ、相当な程度に達することが相当の頻度あること等に照らせば、被告がこれに配慮する義務を怠ったことは、原告らの受忍限度を超えるものとして不法行為を構成し、受忍限度を超える騒音を発生させることは人格権ないし所有権に基づく妨害排除請求として差止めの対象となると認め、騒音測定費用を含めて損害額を認定の上、原告らの請求を一部認容した事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

賃借人が使用細則を守らない場合、どう対処したらよいのでしょうか。

篠原先生の回答

マンション標準管理規約第19条は、区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、規約及び使用細則に定める事項をその第三者に遵守させなければならないと定めており、さらにその貸与する者に、規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない、と定めています。通常、マンションの部屋の賃貸を仲介する不動産業者が、区分所有者に代わりその説明と誓約書の取り寄せを行っていると思われます。 賃借人も、入居時にその説明を受け誓約書も提出していると考えられますが、賃貸借契約の際には様々な書類や手続きがあるため、詳しくその内容を確認していないこともあります。
賃借人が使用細則を守らない場合は、まずその賃借人に対し口頭や文書で、誓約書に基づき管理規約・使用細則は必ず守る義務があることを改めて説明し、違反行為を止めるよう勧告することが第一です。
管理規約にこのような定めのないマンションで、誓約書等がない場合であっても、区分所有法第6条第1項は、区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない、と定めており、第3項ではこの定めを区分所有者以外の専有部分の占有者に準用するとしています。更に、区分所有法第57条で、第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができるとしています。共同利益背反行為を行っている賃借人に対しては、行為の停止以外にも、他の区分所有者への共同生活上の障害が著しい場合には、専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することもできます(区分所有法第60条)。悪質な義務違反賃借人に対しては、このような措置をとることができますので、その状況に応じて対応されるとよいでしょう。
違反の内容にもよりますが、賃貸人である区分所有者にも賃借人の違反行為を知らせて、賃貸人から賃借人に注意するよう求めるという方法もあります。また、管理組合としても、賃借人が入居する際は、使用細則を手渡し、これを守る義務があることを直接伝えることや、使用細則等がない場合でも、区分所有法の規定を説明することも有効な方法と考えます。

【参考】

マンション標準管理規約
(専有部分の貸与)
第19条 区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、この規約及び使用細則に定める事項をその第三者に遵守させなければならない。
2 前項の場合において、区分所有者は、その貸与に係る契約にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定める
  とともに、契約の相手方にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。
区分所有法
(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分
  又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたとき
   は、その償金を支払わなければならない。
3 第1項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に
  規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれ
  がある場合に準用する。
(占有者に対する引渡し請求)
第60条 第57条第4項に規定する場合において、第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。

相談事例

除雪作業は、管理会社の業務ではないのですか。住民が行わなければならないものですか。

篠原先生の回答

除雪作業が管理会社の業務か否かは、その管理会社と結ぶ管理委託契約の内容によります。除雪作業または雪かきが管理委託契約書の管理員業務(別表)に明記されていれば、管理会社が行うこととなりますが、豪雪地帯以外の地域では、一般的に契約内容には含まれていないことの方が多いようです。
管理会社によっては、緊急時の対応として、通路の確保やサービスでできる範囲の雪かきを行っているところもあります。マンション標準管理委託契約書では、第8条に緊急時の業務の規定がありますが、大雪自体は災害又は事故等の事由というものではないため、管理組合の承認を受けないで実施し、その費用を請求するというようなことはないようです。
2014年の2月は、普段あまり積雪がない地域でも、大雪となりました。管理会社や業者に対応を依頼するだけではなく、住民が協力して雪かきを行ったマンションが多くあったようです。管理委託契約の内容を検討するのもひとつの方法ですが、多大な労力を必要とするような大雪の対応などは、管理組合で一度話し合って、できる限り住民も協力して行うものとして意識づけしていくことも必要ではないでしょうか。また、大雪のみならず、異常気象の影響で災害も多くなってきています。地震や災害時の対応について、管理組合で震災・災害時のマニュアルなどを準備しておくとよいでしょう。

【参考】

マンション標準管理委託契約書
(緊急時の業務)
第8条 乙は、第3条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる災害又は事故等の事由により、甲のために、緊急に行う必要がある業務で、甲の承認を受ける時間的な余裕がないものについては、甲の承認を受けないで実施することができる。この場合において、乙は、速やかに、書面をもって、その業務の内容及びその実施に要した費用の額を甲に通知しなければならない。
一 地震、台風、突風、集中豪雨、落雷、雪、噴火、ひょう、あられ等
二 火災、漏水、破裂、爆発、物の飛来若しくは落下又は衝突、犯罪等
2 甲は、乙が前項の業務を遂行する上でやむを得ず支出した費用については、速やかに、乙に支払わなければならない。ただし、
  乙の責めによる事故等の場合はこの限りでない。

相談事例

マンション敷地内の無断駐車が絶えません。 再三注意しても効果がない場合、「無断駐車はレッカー移動します」と 警告文を書いて、車両をレッカー移動することはできますか。

篠原先生の回答

マンション敷地内の車両のレッカー移動は、法律上禁じられている「自力救済」にあたるため、できません。「自力救済」とは、「法的手続によらないで私力の行使(実力行使)をもって自己の権利を実現すること」をいい、一般的には違法行為とされています。
道路交通法では、違法駐車と認められる場合、「警察官等は、道路における交通の危険を防止し、又は交通の円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法の変更その他必要な措置をとり、又は当該車両が駐車している場所からの距離が五十メートルを超えない道路上の場所に当該車両を移動することができる」としていますので、レッカー移動自体は違法とはいえません。マンション敷地ではなく公道での駐車違反であれば、警察に通報すれば、場合によってはレッカー移動もありうると考えられます。しかし、道路ではなく、マンション敷地内の場合は、私有地内ですので、民事不介入が原則となり、警察がレッカー移動したりするようなことはありません。マンション敷地内でも、居住者の車でないことが明らかな場合は、「不審な車が長時間駐車している」と警察に通報すれば、所有者の確認や連絡など協力してもらえる場合もあるかもしれません。しかし、そのような方法は、本当に悪質で対処に窮する場合のことだと思われます。管理組合としては、貼り紙や掲示板での警告など粘り強く対応することが、無断駐車を減らす近道と考えますが、カラーコーンを置くなど物理的に駐車できないようにする方法を検討してみた方がよいようにも思えます。

【参考】

道路交通法
第51条 違法駐車に対する措置車両が(・・・中略・・・)の規定に違反して駐車していると認められるとき、又は(・・・中略・・・)(「違法駐車と認められる場合」と総称する。)は、警察官等は、当該車両の運転者その他当該車両の管理について責任がある者(以下この条において「運転者等」という。)に対し、当該車両の駐車の方法を変更し、若しくは当該車両を当該駐車が禁止されている場所から移動すべきこと又は当該車両を当該時間制限駐車区間の当該車両が駐車している場所から移動すべきことを命ずることができる。
2 車両の故障その他の理由により当該車両の運転者等が直ちに前項の規定による命令に従うことが困難であると認められるときは、警察官等は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法を変更し、又は当該車両を移動することができる。
3 第一項の場合において、現場に当該車両の運転者等がいないために、当該運転者等に対して同項の規定による命令をすることができないときは、警察官等は、道路における交通の危険を防止し、又は交通の円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法の変更その他必要な措置をとり、又は当該車両が駐車している場所からの距離が五十メートルを超えない道路上の場所に当該車両を移動することができる。