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弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー

【相談事例 目次】

相談事例

持ち主が分からない自転車を処分することはできますか。
当マンション駐輪場は登録制としており、利用者にはステッカーの購入と貼付を義務付けています。
このたび、駐輪場の整理のため、駐輪している自転車を確認したところ、長期間使用していないステッカー未貼付の 自転車がありました。掲示板・回覧で持ち主を捜しましたが、申し出がないため処分したいと考えています。
管理組合が処分してよいでしょうか。

篠原先生の回答

放置自転車等の撤去、移動について条例を制定している自治体は数多くありますが、マンション敷地(私有地)には、適用されません。かといって、管理組合が放置自転車を撤去したり処分してしまうのは問題があります。盗難自転車や来訪者が置き忘れた自転車かもしれませんし、何らかの事情で一時的に居住していない区分所有者の自転車かもしれません。このような場合に、撤去・処分等を行うと思わぬトラブルになる可能性があります。
では、どのようにしたら問題のない方法で放置自転車等の整理ができるかということですが、まず、持ち主を探すことです。持ち主が、居住者であれば、掲示や回覧で判明することもあると思われますが、居住者以外の可能性が高い場合は、最寄りの警察に届け出ます。盗難自転車であれば、警察が自転車を移動し保管する場合もあります。警察でも所有者を確認できない場合、管理組合の対処の仕方として、2通り考えられます。一つは、所有者不明の自転車を所有権が放棄された物とみなし(民法第239条による無主物の帰属として)、管理組合がその所有権を取得し、撤去・廃棄処分するという考え方です。もう一つは、遺失物法による遺失物に準じた取り扱いをし、まず3ヶ月程度保管し、その後撤去・廃棄処分するという考え方です。
ただし、いずれの方法も法律で認められている正式な方法ではないため、細心の注意を払って対応することが大切です。マンション内では、掲示や回覧で処分までの告知を十分に行うとともに、警察に届け出た場合は、遺失物法及び民法に則った手続きを踏んだ上で、慎重に行うことが必要でしょう。

【参考】

遺失物法
第1節 拾得者の義務
第4条 拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
第2節 警察署長等の措置
 (公告等)
第7条 警察署長は、提出を受けた物件の遺失者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、次に掲げる事項を公告しなければならない。  
一 物件の種類及び特徴  
二 物件の拾得の日時及び場所

民法
(無主物の帰属)
第239条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
 2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
(遺失物の拾得)
第240条  遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

相談事例

平置きの駐車場に駐車中の車両が傷つけられた場合、どう対処したらよいですか。

篠原先生の回答

原因が、マンションの建物や設備の不備のために傷がついた場合は、管理組合が賠償することになりますが、原因が分からない場合は、その事案ごとに考えることになります。たとえば、明らかに他の車との接触またはぶつけられたようなケースの場合、一般の自動車事故の場合と同じ取扱いとなります。相手方が分かれば、当事者間で解決することになり、相手方が分らなければ、個人の自動車保険(車両保険)で対応することになります。
問題となるのは、子供のいたずらや、誰かの仕業による車両損傷の場合です。この場合、管理組合が賠償責任等を負うのでしょうか。確かに、駐車場使用者は使用料を支払っているため、管理組合に管理責任があるようにもとらえられます。しかし、マンション敷地の一部に白線を引いただけの一般的な平置きの駐車場の場合、駐車場所を提供しているだけで車両を保管しているとは言えないとの理由から、組合は原則として責任を負わないと考えます。 ただ、マンション総合保険に個人賠償特約等が付加されていれば、子供のいたずらや居住者の不注意で他人の物等を破損したり傷つけたりした場合、加害者が特定されれば適用になるケースもありますので、保険会社に確認してみてください。
管理組合としては、このようなマンション駐車場内の事故が発生した場合のトラブルを避けるため、マンション駐車場の使用細則や契約書に、管理組合が責任を負わない旨の規定を設けておくことが必要ではないでしょうか。また、管理組合にも個人(マンション居住者)にも賠償責任が問えない場合、適用される保険はないため、所有者自身が自動車保険(車両保険)に加入しておくことの必要性を、契約時に説明することもひとつの方法かと思います。

相談事例

駐車場使用料の値上げは、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」にあたりますか。

篠原先生の回答

専用使用権分譲型の駐車場の事例ですが、駐車場使用料値上げが「特別の影響」を及ぼすかどうかが争点のひとつとなった判例があります。最高裁平成10年10月30日の判決です。この判例では、使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきであるとしました。また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当であるとしました。
つまり、◆増額の必要性、合理性が認められ、◆増額された使用料が「社会通念上相当な額であるとき」は、 「特別の影響」を及ぼすものではない、という判断です。
そして、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、次の事情を総合的に考慮して判断すべきものであるとしています。
 (1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係
 (2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移
 (3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動
 (4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間
 (5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等
専用使用契約に基づく賃貸型駐車場の場合は、分譲型の駐車場とは若干事情が異なると思いますが、一般的に別に定めるところにより使用料を支払うとしており、細則または契約書で金額を定めていると思います。したがって、総会の決議で駐車場使用料の金額を決めることができますが、値上げを検討する際は、金額の設定やその根拠など、この判例を参考にするとよいでしょう。

【参考】

判例
最高裁 平成10年10月30日 平8(オ)258号
<要旨>
区分所有者が専用使用権を有するマンション駐車場の使用料を増額する規約の設定、変更等は、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者の権利に建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「特別の影響」を及ぼすものではないとした事例。
(出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

来客用または、一時利用として、マンション敷地の一部を臨時駐車場にすることを検討しています。
どのような点に気をつければよいでしょうか。

篠原先生の回答

管理組合としては、共用敷地の一部使用目的の変更の決議が必要です。また、臨時駐車場として運用するとのことですので、使用方法、時間や使用料などを定めた使用細則などを同時に定めることも必要でしょう。
屋根を付けるなど工作物の設置にあたるような場合は、建築基準法などが関係しますが、単に芝生をアスファルトにするということでしたら、関係官庁への連絡・届出は特に必要ないようにも思えます。しかし、消防隊等の進入路及び消防活動用空地などが、問題になることもあるため、消防署に確認しておく必要がありますし、地域によっては、駐車場について自治体が条例などを設けているケースもありますので、駐車場増設の計画の際は、念のため市役所など関係官庁に事前に相談することが大切です。また、臨時駐車場の設置によって、景観、騒音、排気ガスなどの影響が及ぶ居住者、専有部分がないかといったことも考えて判断する必要があります。
これらのことをクリアにしてから、慎重に進める方がよいでしょう。

相談事例

居住者の高齢化や家族構成の変化等で自動車を手放す方がでてきたため、マンション駐車場に空きが出てきました。 駐車場使用料は、管理費会計の収入源の一部のため、収支赤字にならないよう、外部への貸出しを検討しています。 注意点を教えてください。

篠原先生の回答

駐車場使用料は、管理費会計の収入の一部であったり、または修繕積立金に充てられていると思います。収入全体に占める駐車場使用料収入の割合が大きい管理組合の場合、管理費会計が赤字になったり、予定していた修繕積立金が不足したりするリスクがあります。このため、ご相談の事例のように、マンション駐車場に空きが出てしまった場合、なんとか駐車場使用料収入を確保したいと考える管理組合は少なくないと思います。
しかし、管理組合が駐車場を区分所有者以外の第三者に貸出すと、法人税等の課税対象となる場合がありますので、注意が必要です。管理組合は営利目的の団体ではないため、基本的には法人税や事業税等の税金を納める必要はありませんが、収益事業に該当する事業を行う場合は、課税対象となります。
このような事案が増加していることを受けて、国税庁は、平成24年2月3日、「マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について」(照会)をホームページに公開し、収益事業に該当する場合と、該当しない場合の例示を行っています。この中で、いくつかモデルケースが掲載されています。また、収益事業に該当しない場合として、以下の3つの要件を示していますので、参考にするとよいでしょう。
  1. ①マンション管理組合の組合員である区分所有者を対象とした共済的事業であること
  2. ②駐車料金は区分所有者がマンションの附属施設である駐車場の敷地を特別に利用することによる「管理費の割増金」と考えられること
  3. ③駐車場の使用料収入は、区分所有者に分配されることなく、管理組合において駐車場の管理に要する費用を含めた管理費又は修繕積立金の一部に充当されること
なお、具体的に駐車場の外部への貸出しを検討する場合は、税理士等の専門家に相談のうえ、所轄税務署へ事前に確認するようにしてください。