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弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー

【相談事例 目次】

相談事例

管理費等の設定変更・徴収方法などに関する総会決議は一般的には普通決議で実施可能と思いますが、 当管理組合では、規約の別表に管理費等の金額が記載されています。
また、規約の変更については特別決議とされていますが、そのただし書きに「別表記載の管理費等の変更・ 改定は除く」とあります。
この場合、管理費等の改定は普通決議、特別決議のどちらで行うべきでしょうか?

篠原先生の回答

規約の本文に、「管理費等の額は別表第○の通りとする」のように記載され、別表が規約の一部とみなされるような場合には、管理費等の改定は規約の変更に該当し総会の特別決議が必要です。一方、規約の本文に「管理費等の額は別に定める」のように記載され、規約の中に金額の記載がない場合は、別に定めた管理費等の額自体は規約の一部とみなされませんので、規約に別段の定めがなければ、普通決議で改定が可能です。
ご相談の事例では、規約の変更のただし書きに「別表記載の管理費等の変更・改定は除く」と定められているので、普通決議で可能と考えられます。ただ、一般的には、別表の記載も規約の一部と考えられるため、誤解が生じないよう、ただし書きの記載に代えて、例えば、規約本文を「管理費等の額は別に定める」などの文言に変更し、これまでの別表については、「○○年○○月○○日現在、管理費等一覧表」のような標題をつけたうえ、別に定めて管理するなどの方法を検討してみた方がよいようにも思えます。

【参考】

区分所有法
 第31条 (規約の設定、変更及び廃止)
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない
マンション標準管理規約
 第25条(管理費等)
区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
  一 管理費
  二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
第47条(総会の会議及び議事)
3 次の各号に掲げる事項に関する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の
  4分の3以上で決する。
  一 規約の制定、変更又は廃止
第48条(議決事項)
次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
  三 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
  四 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
判例
神戸地裁 平成14年11月5日 平14(レ)90号 判決
<要旨>
管理費等の額を変更するには規約改正の手続として特別決議が必要であるから、特別決議を経ていない本件決議は無効である旨主張したものの、総会において管理費及び修繕積立金の額を決定することは規約の変更に当たらず、特別決議を要しないものと解するのが相当であり、請求を認容した原判決は相当であるとして、控訴を棄却した事例
(出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

管理費・修繕積立金の算出は専有面積割合以外の方法でも有効ですか?

篠原先生の回答

区分所有法第19条では、「規約に別段の定めがない限り、その持分に応じて共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する」と定め、マンション標準管理規約でも、管理費等の金額は、「各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする」として区分所有法の原則を採用しています。しかし、これはあくまで原則ですから、規約に別段の定めがあれば、専有面積割合以外の方法も可能です。例えば、管理費等を、全戸一律で規定することを妨げているわけではありません。
専有部分の床面積がほとんど同じ大きさのマンションの場合は、一律一戸○○円と管理規約に定めている管理組合もあります。しかし、住戸によって専有面積の大きさがかなり異なるような場合は、組合員の負担が公平なものとなるよう同等の面積でいくつかのタイプに分類して規定する方法など、そのマンションの状況に応じて考えることが大切でしょう。

【参考】

区分所有法
第19条(共用部分の負担及び利益収取)
各共有者は、規約に別段の定めがない限り、その持分に応じて共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
マンション標準管理規約
第25条(管理費等)
区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
  一 管理費
  二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。

相談事例

修繕積立金の段階的改定を考えています。
数度の改定を総会で一括承認決議するのと、改定の都度承認決議するのでは、どちらがよいでしょうか。

篠原先生の回答

総会の決議においては、どちらの方法も否定する根拠はありません。
ただ、マンションの長期修繕計画については概ね5年毎の見直しが推奨されていますし、社会的情勢や組合員の構成等もさまざまに変化していくものです。したがって、段階的な改定で、その時期がかなり先のものまで含むとすれば、後で、値上げ金額の妥当性や組合員の負担能力などが問題になる可能性があります。また、役員交代時の引き継ぎが十分になされなかったことで、値上げの時期や金額などが不明瞭になってしまうような問題も懸念されるところです。現実論としては、組合員からの理解の得やすさも踏まえ、改定の時期が来たときに、再度修繕計画・資金計画を検証し、都度承認決議することにした方がよいと思います。

相談事例

2014年4月から消費税率が8%に上がることが決まり、2015年10月には10%に引き上げられる予定と聞いています。
そこで、当管理組合では、消費税率が上がった際、その増加率に応じて自動的に管理費、修繕積立金を改定できる、とする規約の定めを検討していますが、このような定めは有効でしょうか。

篠原先生の回答

管理費・修繕積立金の設定は規約事項なので、そのように定めれば有効になると考えてよいでしょう。
しかし、増加率に応じて計算する場合、端数の処理方法を事前に決めておく必要がありますし、また、改定後の各住戸の管理費・修繕積立金が具体的にいくらになるのか分かりづらくなる等の問題があります。
したがって、自動的に無条件で包括承認を求める定めは、好ましくありません。
消費税の増額が、管理組合の管理費会計と修繕積立金会計にどれほど影響があるかよく検証したうえで、 どうしても改定が必要とされる場合は、一般的な改定の手順を踏んで、都度総会に諮って決議する方法がよいと思います。

相談事例

当管理組合の規約には「役員は現にマンションに居住する組合員のうちから選任する」と定められていますが、マンション外に居住する組合員 (以下、「不在組合員」という。) が増加し、組合運営に関わる負担の不公平を解消するため、組合運営にあまり関わることのない不在組合員に毎月一定の組合運営協力金の負担を求める規約変更を検討しています。
区分所有法第31条では「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」とありますが、承諾が得られなくても規約変更が認められた判例があるとも聞きました。今回の規約変更には、不在組合員の承諾を得る必要がありますか?

篠原先生の回答

マンション外に居住して、役員になることのない不在組合員に対し協力金の負担を求める規約変更については、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するか否かの問題が生じます。
平成22年1月26日の最高裁の判例は、ご相談の事例と同様、役員の資格に現住要件が定められていた場合について、管理組合の過去の経緯や、組合活動の活発性、協力金の金額の妥当性、すでに不在組合員の大半が協力金の支払いに応じている実態等を挙げ、規約変更の必要性及び合理性と、不在組合員が受ける不利益の程度などを比較衡量し、不在組合員の受忍限度内にあり、特別の影響を及ぼすまでとはいえないとしています。
したがって、ご相談の件については、管理組合の構成や規模、不在組合員の状況(戸数や組合活動への係わり方等)、管理費等の額等さまざまな条件により、「特別の影響を及ぼす」かの程度が変わるため、一概に当該判例に準じて、不在組合員の承諾なしに規約変更を行うことが認められるものではありません。
不在組合員に対する協力金等の定めを置く規約変更を検討する際は、規約改正委員会等を立ち上げるなどして、マンションの個別事情との関係で協力金等の負担を求めるのが適当かどうか、慎重に考えた方がよいでしょう。

【参考】

区分所有法
第31条 (規約の設定、変更及び廃止)
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない
判例
最高裁第三小法廷 平成22年 1月26日 平20(受)666号 判決
<要旨>
団地建物所有者全員で構成されるマンション管理組合の総会決議により行われた自ら専有部分に居住しない組合員が組合費に加えて住民活動協力金を負担すべきものとする旨の規約の変更が、建物の区分所有等に関する法律66条、31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に当たらない (出典:ウエストロー・ジャパン)