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トキアス全景(小)

帰宅困難者受け入れ視野に、地区防災計画策定中!

「トキアス」は、東京都荒川区南千住8丁目(汐入地区)に建つ総戸数620戸の大規模マンション。東日本大震災ではほとんど被害を受けませんでしたが、現在改めて防災体制の強化に向けた取り組みを始めています。とくに広域避難場所に指定されている同地区は、首都直下地震が発生した場合に多くの被災者や帰宅困難者が集まると想定されていることから、マンションとしても帰宅困難者を受け入れられないかどうかを検討しているところです。この取り組みは全国でもまだ珍しいため、このほど内閣府の平成27年度地区防災計画モデル事業として採択されました。今回は基本計画策定に向け、現在どのような議論や検討を行っているかを紹介します。

防災・防火

道に溢れる人たちを見て、危機感を持つ

汐入地区周辺地図(トリム)

5年前の東日本大震災のとき、汐入地区では近くの汐入公園に避難する人や帰宅を急ぐ人たちで溢れていました。その光景から管理組合理事メンバーの1人は、「マンションの外にいる多くの困っている人たちを、見て見ぬふりはできない」と感じたといいます。漠然とした思いから、具体的な検討に動くきっかけとなったのは、マンション理事長経験者が集まって行っている勉強会で、震災後の取り組み事例を聞いたときでした。他のマンションでは震災体験に基づき防災マニュアルを見直したり、より実践的な活動を検討しており、「自分のマンションはこの機運に乗り遅れている」と実感したそうです。

トキアスには当初から防災マニュアルがなく、防災活動についても型通りの防災訓練や汐入町会(37棟・4,500戸、1.2万人)主催の防災訓練に参加するのみでした。また、地区内にある都立汐入公園一帯が近隣の住民にとっての広域避難場所であるため、同マンション居住者の大半が「ここに行けば受け入れてくれる」という認識でいたようですが、トキアスの周辺地域(南千住4、8丁目)は東京都の地区内残留地区(※1)に指定されていて、広域的な避難を要しない区域でした。

そこで、マンションの防災体制整備の必要性とともに、帰宅困難者の受け入れについても同時進行で考えていく中で、公的制度を利用することを検討しました。まずは助成金が付く荒川区の災害時地域貢献建築物の認定制度(※2)を利用しようと考えましたが、①地震だけでなく水害時に地上5階以上で避難者を受け入れること、②水害時の受け入れについて管理組合総会で承認されていることが認定基準となっていたため、これから防災体制を整えていこうとするトキアスにとってはハードルが高過ぎました。

別の手段を探していたところ、コンサルティング会社を通じ、内閣府の地区防災計画モデル事業を紹介されました。この話を受け管理組合理事長は「この地区防災計画がうまくいけば、区の地域防災計画に組み入れられ、汐入地区全体の防災力を高められるのではないか」と期待し、早速応募したところ指定を受けることができました。

(※1)不燃化が進んでいることから、火災発生時でも大規模の延焼火災の恐れがない地区

(※2)水害時に近隣住民の一時避難先となる建物を「災害時地域貢献建築物」として認定する制度

不安の声も多い一方、「お互い助け合いが必要」と認識

第3回防災会議その1

そこで、理事会において、首都直下地震が発生した際の状況の説明と意見交換を行ったところ、「災害発生時の混乱を防ぐための受け入れルール作りが必要ではないか」との意見が多く出ました。2015年9月に開催した防災セミナーでは、「自分たちの安全を確保できるのか」「子どもたちは大丈夫か」といった声が多く挙がるとともに、勤務地周辺では自分自身が帰宅困難者になる可能性があることから、「助け合いの姿勢が必要」「万が一の際には対応しないといけないと思う」など、相互扶助の視点での意見も出たといいます。

意見交換の結果、理事会・防災委員会では受け入れる際の想定を細かく設定するとともに、居住者の安全確保について検討するという方向性を決定しました。受け入れる場所については、居住棟と区切られた構造である共用棟を前提に考えていくことにしました。

ワークショップを通じて課題を洗い出す

トキアス資料写真(修正)

モデル事業では内閣府が任命する防災アドバイザー(大学教授など)やコンサルティング会社からのアドバイスを受けることができるため、荒川区防災担当者も加わった形での防災会議を開催しながら、地区防災計画策定に向けた協議を行っています。同時に第1回目は汐入町会全体を対象に、第2回目はトキアス住民・防災委員会メンバーでワークショップを実施し、首都直下地震を想定した具体的な防災体制や設備の運用、安否確認方法、帰宅困難者対策などの課題やアイデアを洗い出しました。2015(平成27)年12月下旬に開催された第3回目には、洗い出した内容について居住者・コンサルティング会社・行政の視点から「重要性×実現可能性」の5段階評価を行い、自助・共助・公助の観点からそれぞれの意見を出し議論を行いました。今後はこの評価に基づき、同マンションにおける地区防災計画の「優先順位」とコンセプトを決めていくことになります。

今回の取り組みでは最終的にマンションとしての防災ビジョンを策定することにしていますが、その前提として居住者間における共通認識も必要になります。そこで管理組合理事会では防災会議と並行して、居住者向けに震災時の行動や自助活動に関する防災アンケートも実施しました。現在、回収したアンケート結果を集計中ですが、「世代・居住階層などによって認識・考え方のばらつきがあるだろう」(管理組合理事メンバー)との想定から、計画への盛り込み方を含めて検討を重ねていく予定です。

目指すは「防災特区」指定第1号。地域への広がりに期待!

第3回防災会議その2

この半年間でトキアスの防災活動への取り組みは、大きく進展しました。「トキアスに住む人たちはみな家族だ」というコンセプトのもと、自助の意識を家族内からマンション全体に広げるという共通認識を示し、8月に防災委員会を立ち上げています。

また、ホームページのリニューアルに伴い、災害時安否確認体制も強化するとともに、防災訓練以外のコミュニティ活動を通じ居住者間交流も活発になりはじめました。管理組合理事長は、「遅れを取ったからこそ、後発者利益の発想でベストかつ最新のシステムや情報を取り入れてしています。地区防災計画モデル事業も計画策定が最終目的ではなく、定期的にアップデートしながら運用していきたいと考えています」と話してくれました。

地区防災計画については周辺マンションにも広げていきたいと考えており、最終的には汐入町会全体が各棟で共通の基準で連携することも目指していく方向です。将来の構想としては、防災特区(発災後に行政支援なしに生き延び、避難者受け入れをもできる地区)指定も視野に入れ、「大規模マンションの防災モデルとして新しい道を切り開いていきたい」(管理組合理事長)と意欲的です。

概要(取材年月:2015年12月)
  • 建物名:トキアス
  • 所在地:東京都荒川区
  • 階数 :20階建て・1棟(共用棟含め5棟構成)
  • 総戸数:620戸
  • 竣工年:2005(平成17)年
  • 管理形態:委託管理
  • 管理会社:三菱地所丸紅住宅サービス(株)
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :20人(理事19人、監事1人)
  • 役員任期:1年(輪番制+立候補制)