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図1

大型台風の襲来で災害対策本部を設置。積極的な運営で、今後のために「経験値」を積む!【後編】

千葉市花見川区にある「エステ・シティ海浜幕張」は、総戸数462戸、築22年を迎えるマンションです。昨年10月に大型の台風19号が襲来し、朝から全館停電となってしまったことで、初めて正式な災害対策本部を設置。まずは、停電のために住人が混乱することのないよう、各住戸に一斉アナウンスで災害対策本部設置の案内と停電情報を共有し、注意を促しました。
⇒前編はこちら

防災・防火

いよいよ災害対策本部を設置。まずは対応の洗い出しから!

ホワイトボード2また、防犯防災委員長と理事長から各委員および理事宛てに、自宅での対応を済ませた方から順次集まってもらうようメールで連絡。最終的には、本部となるカフェラウンジに、25名ほどが集まりました。集まってまずみんながしたことは、対策項目とタスクの洗い出しです。大型のホワイトボードを運び込み、思いつくタスクを書き込んでいきます。

 

各戸に対して、断続的な断水・停電に備え、浴槽にトイレ用や生活用の水を貯める、突然来る停電に備えて携帯電話等の充電を済ませておく、台風15号の時にはエレベーターのスイッチが一部ショートして使えなくなった経験を踏まえて、ショートによる停止・閉じ込めを防止するためエレベーターの使用を極力避けてもらうよう知らせるなど、具体的な対策が挙げられました。やるべきこととその優先順位、さらに担当者を割り振ります。そのうち電気は断続的に復旧しましたが、雨と風はますます激しくなってきました。この時点で、台風はまだ千葉に上陸していませんでしたが、進路は直撃するコースでした。

 

理事が代理で管理員業務。浸水リスクのある車を敷地内に移動!

車移動中

対策の中でも特に出色だったのは、管理員業務の運営についての対応です。エステ・シティ海浜幕張では、土日も管理員が常駐する仕組みになっていますが、管理組合理事会は、すでに出勤をされた管理員さんが電車の不通などで帰宅困難になってしまうこともありうると考え、管理会社と調整し、業務を切り上げて11時には帰宅させる指示を出しました。その代わり、管理室には常時3名ほどの理事たちが交代で入り、代理として管理業務を行うこととしたのです。

 

また、最も大きな問題は駐車場の浸水でした。3階建ての駐車場は、一部が半地下になっており、大雨によって水没してしまう可能性があります。そこで対策本部では全戸に駐車場浸水リスクについて放送で呼びかけ、該当する半地下部分の駐車区画契約者のみを敷地内の道路等に移動するか、そのままにしておくかの判断をしてほしいとお願いしました。対象となるのは全部で55区画。外に置くとそれはそれで飛来物がぶつかるなどのリスクもあるため、そこは自己責任で判断してほしい旨も伝えます。車以外にも、小型バイクも転倒の可能性があったので、建物脇の風が当たりにくい場所への移動も受け付けました。

 

車やバイクを移動したい人は管理棟に集まってもらい、11時から受付を開始。その結果、40台の移動申し込みがありました。本部では駐車場上層階で未契約の区画や来客用区画、その他敷地内の道路や通路など車を止められる場所を確保し、40台を割り振って、激しい雨風の中数名の理事たちが外に出て移動車を誘導しました。「正確に止めてもらうために、細かい指示が必要だったので、誘導は必須でした」と言うのは委員長の加藤さん。暴風雨の中で必死に誘導をした1人です。

 

理事や委員たちの努力と、住人の協力もあって、車の移動は無事30~40分で終了。外で作業をし、びしょぬれになってしまった人も多く、随時交代したり、業務から解放したりと本部の判断で融通を利かせました。「理事も同じ住人。なるべく多くの人が関わりながら、一人ひとりが無理のない範囲でやることが大事です」と理事長の杉浦さんは言います。

 

翌日朝に無事対策本部が解散。検証もしっかり行う

OLYMPUS DIGITAL CAMERA無事に車の移動も終わり状況が落ち着いてきたころ、ちょうど台風が上陸し風雨のピークを迎えたことから、対策本部の理事や委員の安全に影響が出ると判断し、本部と管理員業務は15時でいったん終了。台風一過となった翌日は7時に再度集合し、災害個所の把握と移動した車をもとの場所に戻すための案内をしました。8時をめどに車を戻してほしい旨を40台の所有者に通達。敷地内を見回り、特に故障などがないことを確認しました。管理員さんも無事出勤でき、9時をもって災害対策本部は解散。ほっと息をつきます。

 

最も心配していた駐車場は、特に被害はありませんでしたが、排水溝があふれていた個所があり、もう少し雨が多かったら間違いなく水没していたところでした。対策の一つに、避難したいと思う人がいた場合に備え、現在近隣で開設されている避難場所の報告など、先を見据えた情報発信を随時行ってきたことが奏功し、翌日、管理室に「事細かに情報を教えてくれてありがとう」と感謝の声が住人から寄せられたそうです。

 

委員会では、今回のことを「よい経験」ととらえ、翌月の理事会でしっかりと検証も行っています。まずは、足りない備品の買い足し。当日は雨合羽の備えがなく、それぞれ個人で持ち寄ったそうですが、有事に備えて30着買うことにしました。また、停電すると断水が起こりますが、地下の貯水タンクから水を配給する時にそれを運ぶバケツがあると便利だと気づきました。もちろん、それも購入しています。さらに、停電で通信ができなかったため、小型のトランシーバーも購入。防災マニュアルの見直しも検討され、実体験をしながらのシミュレーションになりました。

 

「平日に災害があった場合は、公共交通機関の計画運休や企業が出社を制限するなど、家にとどまるようにすることが今の社会的な動きです。働く世代の理事がいなくて本部が立ち上げられない、という状況も変わりつつあります。まずは災害対策本部の運営を経験したことが何よりの収穫。今回のような経験を一つひとつ積み重ねて、よりよい対応ができるようにしたいです」と杉浦さんは語ってくれました。

 

概要(取材年月:2020年01月)
  • 建物名:エステ・シティ海浜幕張
  • 所在地:千葉県千葉市
  • 階数 :14階建て・5棟
  • 総戸数:462戸
  • 竣工年:1997(平成9)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:日本マンション管理(株)
  • 総会開催:毎年2月
  • 役員数 :理事29名、監事2名
  • 役員任期:2年(立候補と輪番制)