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「100年マンション」を目指して長期修繕計画を検討。自主管理マンションならではの驚くべき手法とは?

管理組合の大事な仕事の一つに、修繕があります。修繕の仕方によって、マンション躯体の寿命は大きく変わるともいわれています。それは、長期修繕計画書を作成し、適宜見直しを行いながら資金計画と合わせて実施していくことで居住環境を保ち、資産価値や建物・設備を維持していくための大切な仕事となります。しかし、小規模な修繕は実施していても、その内容を長期修繕計画書に反映し、見直しを行っている管理組合は少ないのではないでしょうか。今回は、自主管理ならではのアイデアで、長期修繕計画の見直しを行ったマンションをご紹介します。

各種サークル活動

何度もつくりなおした長期修繕計画案

OLYMPUS DIGITAL CAMERA竣工当初から、所有者居住者が知恵を出し合いながら自主的に管理を行ってきたマンションがあります。このコラムでももう何度も取り上げてきた総戸数165戸の「コープ南砂」。1981年に竣工した自主管理のマンションです。管理費を上げずに「できることは自分たちで行う」という考え方や、長屋的つながりを生かした「助け合いの会」など、さまざまな取り組みは参考になる点がたくさんあります。9月に襲来した台風15号では敷地内のさくらの木が倒れてしまったものの、住人数人が集まり、マンションで所有しているチェーンソーを使ってすぐに片づけてしまったそうです。

 

さて、そんなコープ南砂では、2018年に大規模修繕工事検討委員会を発足させました。2度目の大きな修繕工事を2005年に終え、これまでの修繕履歴を作成するとともに、今後15年間の間に予定されている修繕計画について検討するための委員会です。さらに、これから「このマンションをどのように管理していくべきか」までを見据えた修繕工事の在り方を考えるためでもありました。

 

コープ南砂の修繕工事は、入居3年目の1983年から始まりました。当初から自主管理だったため、管理組合で作成。その計画にのっとって修繕をしていましたが、1回目の大規模修繕が始まる前に一度きちんとした長期修繕計画をつくった方がいいということになり、1989年に「長期修繕計画案」、さらにその後の1995年にも別の業者に「長期修繕計画(案)」を作成してもらいました。この外部委託費はどちらもおよそ250~300万円。しかし、これらの案は「作って終わりで、有効に使われているとは言い難く、思ったように機能しなかった」と理事長の小林さんは言います。

 

修繕箇所ごとに分けて付き合いのある業者に提案を依頼

そこで検討委員会では、長期修繕計画を再度見直すための検討作業に入ることを決定。前回の見直し時の経験を踏まえ、違った方法で見直し作業に着手しました。例えば、外壁塗装なら日本ペイント、給排水設備は建装工業、エレベーターは三菱ビルテクノサービスというように、修繕箇所ごとにこれまで管理組合が設備点検の業務を委託したことがある業者、もしくはコープ南砂の修繕工事実績がある専門業者に協力を仰いだのです。

 

それぞれの業者には、参考資料として「中長期修繕計画案」を提出してもらい、これまでに改修工事の履歴がないものの修繕周期を迎えているドアや防火扉など鉄製建具やアルミ製品の更新については、大手住宅建材メーカーに依頼しました。これらの提案書は、すべて無料です。そして、集まったそれぞれの箇所の提案書を付け合わせ、予算との兼ね合いを見ながら自分たちで再度長期修繕計画を組みなおす、という作業をしたのです。

 

「ほとんどのマンションは、修繕時期が迫ってくると管理会社からの提案を受けて理事会で検討し、修繕委員会を立ち上げて建物・設備の状態を掌握して進めていくというやり方です。また、国交省のガイドラインはありますが、それはあくまで“標準”です。マンションは築年数や立地している周辺環境、建物・設備の仕様などがそれぞれ違うので、所有・居住しているマンションに合った計画を作らなければなりません。自分のマンションにピッタリの修繕計画を立て、さらに常に見直していく必要があると思います」と小林さん。今回コープ南砂が取った方法は、長年続く業者との関係性があったからこそ実現したもの。保守管理や修繕の外部発注まで、自分たちで選び決めてきた自主管理マンションならではの賢い手法といえます。

 

修繕履歴や資金計画書も作成して、みんなで共有

SKM_C65919102418011_0003検討委員会ではさらに、修繕金額や発注業者も記載した修繕履歴も作成しました。「これもやはり一般論ですが、履歴は管理会社がつくるものと任せっきりで放置しておくと、管理会社を変更した際などに書類がなくなってしまうということがままある。なかには竣工図書すらないマンションもあるそうです」と、これまでの実績から数多くのマンションの相談に乗ってきた小林さんは言います。閲覧できる図書類や修繕履歴などの書類があることは、もちろん住人の安心につながりますが、それだけでなく、このマンションの一室を購入しようと考えている方には、購入の検討材料の一つとなり、維持管理がしっかり行われていることをアピールできることで、資産価値を維持することにもつながっているのです。

 

そして、検討委員会では、新しく作成した長期修繕計画案や修繕履歴、工事資金計画書などの書類のほか、今後15年の間に修繕周期を迎える主な改修工事の概要や必要予算などを詳しく解説したものを書面にし、住人みんなと共有しました。工事資金計画書は、修繕積立金を値上げすることなく必要な修繕工事を計画することを基本にして試算しています。

 

「マンションの寿命は、一般的に60年といわれていますが、建物や設備等の定期的な点検や計画的な修繕工事を実施していくことで、維持していくことができるのです。当マンションでは、100年もつ躯体を目指して修繕計画を立て直しました。また、管理業務をスムーズに推進するには住人の協力が欠かせないことから、普段のコミュニティ活動にも力を入れています」と小林さん。それらに加えて、「できることは自分たちで」をモットーに、修繕工事や日頃の保守管理において、人任せにせずに自分たちで業者選定や予算組みなどを積極的に行ってきたからこそ、オリジナルの長期修繕計画を立てることができたのです。

 

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次回は、長期修繕計画にのっとって実施された大規模修繕工事についてご紹介します。

 

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これまでのコープ南砂の取り組みはこちら

「マンション内互助」という画期的な取り組み!長屋的つながりで住人を見守る「助け合いの会」(1) ⇒ Check

区との協働でマンションと地域の環境を守る!「できることは自分たちで」の精神でコミュニティも育成中(2) ⇒ Check

子どもからお年寄りまで、みんなで盛り上がるイベント満載!コープ南砂の秋祭り ⇒Check

管理費と修繕積立金は、30年以上前から値上がりなし!良好なコミュニティから始まる運営手法とは? ⇒ Check

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概要(取材年月:2019年09月)
  • 建物名:コープ南砂
  • 所在地:東京都江東区
  • 階数 :14階建てなど
  • 総戸数:165戸
  • 竣工年:1981(昭和56)年築
  • 管理形態:自主管理(一部委託)
  • 管理会社:─
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :管理組合8名、自治会13名
  • 役員任期:管理組合1年(毎年4人が交替)、自治会1年(輪番制・総入れ替え)