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子育てマンションから保育園が撤退!ピンチを逆手にとって、共用施設の充実を図る

大規模マンションに多い様々な共用施設は、それだけでマンションの購入動機にもなるコンテンツです。また、マンションにある店舗(テナント)は入居者にとって便利な施設であることも多く、そこに魅力を感じる人も少なくありません。でも、もしそのテナントが突然撤退してしまったら……?「マンションいい話コンテスト2018」で佳作を受賞した『新施設エアリス完成!』は、まさにそんな状況を逆転の発想で打破し、住人の満足度を高める施設へとよみがえらせた好事例です。
※前回紹介した「防災委員会」の記事はこちら

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子育てマンションの目玉・保育園が撤退⁉

OLYMPUS DIGITAL CAMERA市川市にある総戸数609戸の大規模マンション「クレストシティタワーズ浦安」。ファミリータイプのマンションで、エントランスの横に保育園が併設されていることが特徴のひとつです。市川市と提携した「子育てマンション」として認可されており、2006年の竣工当時「保育園併設」を魅力に感じて入居した人も少なくありませんでした。しかし、それから10年経ったころ、保育園が経営難により廃園する、との報が突然管理組合にもたらされたのです。

 

そこで管理組合では、2017年に「保育所施設再利用委員会」(以下、再利用委員会)を発足させ、検討をすることに。当初6名でスタートした委員会の委員長であり、「マンションいい話コンテスト2018」に寄稿してくれた楠さんはいいます。「入居当初は所有者・居住者の子どもが小さかったこともあり、保育園は盛況でした。ただ、同じ年頃の子どもがいる世帯が一斉に入居したため、ある時期から保育園に通う子ども、特に0~3歳児は極端に減り、また私立の保育園なので保育料が高かったこともあって、徐々に入園する人が減っていったんです」。料金の高さなどから、ほかの保育園に通園させる居住者が出てきたり、保育所の撤退に関して、業者は3ヶ月前に申告するだけで、原状回復や修繕費用など一切の費用負担を免除する契約だったことなどもあり、廃園を決定したようです。

 

 

住人アンケートをもとに、要望に沿った施設を計画

ライブラリーさて、保育園の廃園後、空いた施設をどのように使用していくのかが課題でした。賃料を取ってテナントを誘致する、という方法ももちろんありますが、管理組合としてはできれば所有者・居住者の利用を前提として、利用者から施設使用料を徴収する方向で行きたいという意向がありました。なぜなら、賃貸に出すとその会計は管理会社の管理業務外になるため、所有者・居住者たちが自ら会計をしなければならず、管理組合の業務がかなり増大するからです。そこで、再利用委員会では所有者・居住者へのアンケートを実施。複数の共用施設を再構築することにしました。

 

もともと、クレストシティタワーズ浦安には、たくさんの共用施設が存在していました。エントランス付近にある2層吹き抜けのラウンジ、ライブラリールーム、ゲストルーム、フィットネススタジオ、ヒーリングルーム、キッズルーム、キッチンのついたパーティルームなど、かなり充実しています。しかし、アンケートの実施により、共用施設はマンションのセキュリティの中にあるので外部の人を呼べないことや、それぞれの施設の使い勝手に不満があるなどの意見もあり、新しい共用施設をつくることにおおむね賛成の結果となりました。そこで再利用委員会では、所有者・居住者の要望を反映したデザインを描いてくれる施工会社3社を選び、デザインコンペを実施。住人投票の結果から業者を決定し、同年に費用を含めた改修実施案が総会にて承認されました。

 

しかし、着工に向けて準備をしていくなかで、竣工当時、市川市と売主が「子育てマンション」として認可を得るために協議書を取り交わしていたことがわかりました。協議書と実体が違ってくることから協議書の変更が必要となったのです。この協議書の変更は総会決議が必須であり、臨時総会を開催するか、翌年5月の通常総会にかけるかの選択しかありませんでした。

 

せっかく管理組合が一丸となったのに、思わぬ形で水を差されることになった再利用委員会。メンバー間に焦りが募りはじめたころ救いの手を差しのべてくれたのが、管理会社でした。「市との協議など、これは管理業務の範疇を超えているのでは? と思うような業務まで管理会社が対応してくれたことは、本当に助かった」と楠さん。臨時総会の開催にも時間がかかり、その後の各種建築許可等の申請にも時間がかかりましたが、翌年の1月に無事許可が下り、ついに着工。8月には新施設がオープンしました。

 

新施設「エアリス」オープン! 老若男女に大好評!

図1新しい施設の名前は「エアリス」。「すべての人がだれかを呼びたくなる素晴らしい施設」の英語表記からとったもので、所有者・居住者に名称募集を実施、採用しました。その内容は、本格的なトレーニングマシンが入ったジム、カラオケルーム、レンタルルームに、大人数が泊まれるゲストルームです。これらはアンケートの結果によってつくられたもので、例えばゲストルームはすでに2つあるのですが、もっと大人数が泊まれるゲストルームを!という声が多かったため、和室と洋室の二間がある広いゲストルームを新しくつくり、和室に布団を引いてたくさんの人が一緒に泊まれる部屋としました。

 

改修工事の費用は約3,400万円となりましたが、既存施設の利用率を参考に、新施設をすべて有料にし、13年で費用を回収できる試算です。8月のオープンに先駆けて内覧会を開催したところ、計4回の内覧会に250人以上が参加。歩くのを日課としている年配の方は、外出時にもしも転倒してしまったらと心配だったそうですが、「ウォーキングマシンのおかげで安心して歩ける」と大喜びだったそうです。

 

エアリスの稼働時間は8時から23時。⼊⼝はセキュリティのあるマンションの⽞関⼝と別になるため、地域の⽅などに声をかけ、教室等を開くことも可能となりました。マンションとは別の建物にあることから、セキュリティの強化を目的に、入り口や主要施設は非接触型IDキーにし、⼊退室のログを管理できるシステムを導入しました。また、高価な機器等もあるから、全施設と玄関に監視カメラを設置し、盗難や破損があった場合に備えました。さらに、既存施設も含めてデジタルで予約管理できるよう、共用施設管理予約システムも導入。このシステムで電⼦決済(管理費と一緒に口座引落)が実現し、フロントでの現金出納業務がなくなり、管理員業務を圧縮することにも成功しました。

 

「オープンから数か月、おかげさまで想定以上の稼働率です。一番人気はカラオケルームで、発声練習や高齢者の歌合戦などにも利用されています。ジムは月極めの会員を当初70人としていたのですが、好評のため90人に増やすことになりました」と楠さん。2年半続いた再利用委員会は、エアリスのオープンと同時に前述のWeb管理システムの推進を主務とする委員会に替わったそうですが、エアリスの完成にみんな満足してくれたと誇らしげでした。

 

概要(取材年月:2019年02月)
  • 建物名:クレストシティタワーズ浦安
  • 所在地:千葉県市川市
  • 階数 :地上20階建て
  • 総戸数:609戸(4棟)
  • 竣工年:2006(平成18)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:大和ライフネクスト(株)
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :16名
  • 役員任期:1年(輪番制)