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大規模修繕をきっかけに団地の未来を再考し、魅力ある団地にするための外断熱改修に成功!【前編】

10年から15年を目安に行われるマンションの大規模修繕工事。特に3回目の大規模修繕は、工事の内容も金額も膨大なものとなる傾向があります。不具合のある個所を直し、以前の状態に戻すのが修繕の基本ですが、なかには機能を向上させて建物の価値を上げる改修工事に着手するケースもあります。より快適で魅力的な建物となるように、外断熱の改修を成功させた団地をご紹介します。

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2度目の大規模修繕時に外断熱を検討するも、断念

OLYMPUS DIGITAL CAMERA一級建築士の花牟禮(はなむれ)さんは、多摩ニュータウンの豊かな住環境にひかれ、20年ほど前に家族とともに移り住みました。住居として選んだのは、全29棟の低層棟からなる総戸数356戸の「エステート鶴牧4・5住宅」(以下、エステート鶴牧)。昭和57年に建てられた当時から、自主管理を貫いている団地です。ゆったりとられた敷地に2階から5階建ての低層住宅が点在し、各戸の専有面積も70㎡から100㎡を超え、タウンハウスやメゾネットなど様々なタイプの住居が用意されています。

 

公共施設やマンションなども手掛ける建築設計事務所に勤める花牟禮さんは、多摩ニュータウン内の住宅設計に関わったこともあり、ニュータウンの良さについてはよく知っていました。「旧公団が一番元気な時に環境のことをよく考えてつくったのがこの時代のマンション。エステート鶴牧も同じで、周辺環境との調和がすばらしい」と花牟禮さん。入居して4、5年経ったころ、当時の理事長が子どもの同級生の保護者だったこともあり、大規模修繕委員に関わることになりました。

 

大規模修繕委員会で花牟禮さんは、当時アメリカやドイツですでに実績のあった外断熱改修を提案しました。しかし、公共施設の外断熱改修を手掛けたメーカーにヒアリングをしたり、様々な勉強会に参加した結果、外断熱の良さは理解できたものの、建築上の疑問点が解消されなかったこと、また特に金額面で折り合いがつかなかったため、この時は外断熱改修を断念し、既存の建物を修繕するにとどまったのです。

 

団地の未来を考える「団地整備検討委員会」

図2第2回目の大規模修繕工事のあと、理事たちは次の大規模修繕工事に向けて団地の将来を見据える必要があることを呼びかけました。なぜなら、建物の老朽化からトラブルは増加傾向にあるのに、その対応は原状回復のみ、工事内容は仕事を依頼した業者任せで、その年の理事によって判断にもばらつきがあったからです。「このままでは無駄に修繕費を消費するだけなのではないか」。将来を見据えて計画的に修繕を重ねていくことで、効率的に環境を整えられるはずと考え、理事会は団地の課題を総合的に検討する「団地整備検討委員会」を立ち上げました。

 

自主管理であるエステート鶴牧は、窓口および出納業務、清掃、中高木の植栽の伐採剪定等の植栽管理以外はほぼ自分たちで管理をしている団地です。低木や草花の剪定は住人ボランティアが行うなど、何でも自分たちで責任を持ってやり遂げる、という考え方の住人が揃っていました。花牟禮さんのような建築家だけでなく、経理の専門家などその道に通じた人も多く、マンパワーにも恵まれています。ただ、各部会がそれぞれ独立しているため、将来まで見据えて全体を考える機関がなく、理事の仕事も任期満了とともに継続性が途切れてしまうのが欠点でした。そのため、団地整備検討委員会は各部会から人を募り、横断的に情報交換をしながら団地全体の今とこれからを考える会としたのです。

 

委員会のテーマは「団地の未来」。築年数の古いマンションや団地が必ずぶつかる「マンションの2つの高齢化」は、エステート鶴牧でも問題になっていました。建物の老朽化と所有者・居住者の高齢化です。これらを解決するには、建物に新しい価値を与えることで若い世代に選ばれる団地になることが肝要だ、という結論に達した委員会は、建物の価値を上げる修繕を進めるための検討を始めました。

また2回目の大規模修繕のあと、すぐに次回の大規模修繕に向けて修繕積立金の値上げをしました。というのも、次の大規模修繕工事は、今回の倍の工事費がかかることが、試算によりわかっていたからです。

 

もちろん、建て替えも検討しましたが、様々な条件により断念しました。エレベーターを導入することについても、最大の魅力である周辺環境との調和が崩れるということで断念。2回目の大規模修繕工事で議題に上がった外断熱改修について、花牟禮さんを中心に検討を重ねつつ、委員会の活動は3年ほど続きました。

 

ついに外断熱改修工事の実施に向けて、具体的な検討を開始

そして、3度目の大規模改修工事が近づき、大規模修繕委員会は2011年に検討を開始しました。これまでの積み重ねがあったために、外断熱を検討項目に入れるのは自然なことでした。ただし、築30年を超える3回目の修繕工事ともなると、修繕しなければならない項目は盛りだくさんです。様々な個所が老朽化し、建物の配管類や屋根、植栽、照明など、更新を含めた大幅な見直しが必要になってきます。エステート鶴牧でも電力容量の増強や屋根の葺き替え、また30年にわたって一度も手を付けられずにいたスラブ下配管をスラブ上にする工事も必須でした。

 

なかでも、早急に手を付けるべき工事は漏水が始まった屋根でした。これは足場が必要となるため、並行して外壁も前倒しで工事することになりましたが、その際、外壁の長寿命化と省エネ化を同時に解決する方法として外断熱が上がりました。しかし、様々な改修を行ったうえで外断熱改修もできるのかどうか──。大規模修繕委員会は3つのパターンを想定して公募した施工会社3社にそれぞれ見積もりを出してもらうことにしました。

① 断熱外壁改修・屋根葺き替え等

② 現行仕様のままで外壁改修・屋根葺き替え等

③ 屋根葺き替え等

この3パターンです。見積もりが上がってくると、修繕積立金を値上げしたとはいえ、外壁の工事までは手が回らないことがわかりました。そこで、とりあえず③の仕様で修繕工事をすることに確定したのです。

 

理事会はこれまでに、外断熱改修工事を成功させた多摩ニュータウンの「南大沢ホームタウン」をはじめ、3回にわたって見学会を開催し、勉強会なども開いて理解を深めてきました。それだけに、外断熱改修工事を諦めるのは残念なことでしたが、住環境改善と省エネ化による価値向上の改修のためとはいえ、住人から追加で徴収することはできない相談でした。

しかし、そこに突然、思いもかけない朗報がもたらされたのです。

 

☆☆☆

突如舞い込んできた朗報とは? 後編でくわしくお伝えします。

 

To Be Continued.

概要(取材年月:2019年02月)
  • 建物名:エステート鶴牧4・5住宅
  • 所在地:東京都多摩市
  • 階数 :地上2~5階建て
  • 総戸数:356戸(29棟)
  • 竣工年:1982(昭和57)年
  • 管理形態:自主管理
  • 管理会社: -
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :15名(内監事2名)
  • 役員任期:1年(輪番制、推薦方式、引継ぎの数ヶ月間残留する理事を数名確保)