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1図1

建替えできないマンションが目指す“100年マンション”への道のり【後編】

世界遺産 上賀茂神社から徒歩約10分、鴨川河畔にあり、散歩をするにも快適な立地に建つ「フォルムウイング上賀茂」。バブル経済期に竣工し周りの羨望を集めた高級マンションですが、京都市が行う新景観政策の影響により、現状規模での建替えが不可能に。そのため管理組合は、いまある資産価値を維持することを最重要課題に掲げ、さまざまな取り組みを展開しています。これまでの経緯と最たる取り組みを紹介した前編に続き、今回は、近年特に重視している、減災のための施策についてご紹介します。

その他

“緊急時は自宅避難”を想定し、必要なモノを厳選

2フォルムウイング上賀茂が本格的に減災に取り組み始めたのは、2011年に起きた東日本大震災からでした。幸い、フォルムウイング上賀茂は新耐震基準を満たした建物であることから、「緊急時は自宅避難」を想定し、いかに被害を減らせるかを考えて対策を講じました。震災以外にも、近年は想定をはるかに超える大型台風も多発するようになり、減災の重要性はますます高まっています。事実、2018年9月4日に上陸した台風21号でも、「マンションのスレート瓦が飛んでいき、ベランダの隣戸間のパーテーションが破れ、他所の家の外壁も飛んでくるなどの被害が出た」と、修繕委員長の林さんは話します。

 

具体的な策としては、全住人が参加する自治会(※)が購入したバールなどの工具を、緊急時に誰もが簡単に使えるよう2・4・6階のエレベーター(EV)ホールに設置したほか、

① EVに自動停止装置が付いていないことから、地震時に閉じ込められた際に半日は過ごせるよう、EV内にトイレ兼用収納ベンチを設置

② 地上・屋上にあった40t・10t貯水タンクを撤去し、給水方式を直結増圧方式に変更

③ 住戸玄関扉の耐震ヒンジ化

④ 自治会の協力により備蓄倉庫を設置

――などを行ってきました。さらに、中庭へ出る際に妨げとなる扉の撤去、スロープ・手すりなどの取り付け、マンション玄関の宅配ボックスへのAED(自動体外式除細動器)設置なども行っています。

 

3特徴があるのは、食糧の備蓄です。集会所の裏庭に設置した備蓄倉庫に、米航空宇宙局(NASA)向けに開発された宇宙食を備蓄し、全住人約150人に1日2食ずつ、4日間配付できるようにしています。一般的な非常食は5~7年保存が目安ですが、宇宙食の有効期間は25年! それも国内法の消費期限の関係の表記で、米メーカーによると容器に変形・破損がなければ半永久的にもつといい、林さんは、「3日分70万円と高価だが、購入し直しの手間や費用を考えるとコストパフォーマンスは高い」と考えます。とはいえ一般的な非常食より高価なことは確かで、「一度には買えないから1日分ずつ4回に分けて購入し、毎年買い増ししている」そうです。

 

さらに保存水は消費期限5年のものから10年保存のものに切り替え、3日分備蓄。住人全員分の簡易トイレも3日分備えており、災害時の“72時間の壁”を自力で超えられる体制を整えています。余談になりますが、「前回ペットボトルを購入してから4年経ったので、夏に非常用の水を買い替え、それまでのものを無料配付したんですが、酷暑だったこともあって“売れ行き”好調でしたよ」と笑いながら話してくれました。

 

台風21号の被害も教訓に、2回目の大規模修繕工事の実施へ 

DSCN1356さて、目下最大の“事業”は、前回の修繕から16年の時を経て実施する、2回目の大規模修繕工事です。2019年3月末の着工に向けて、現在6社から見積りを取っているところで、2019年1月には臨時総会を開き、採決したいと考えているそうです。

バブル期の建物ということもあり形状が特殊なため、コンサルタント会社による概算工事費は、1億数千万円になるといいます。現在、修繕工事に充当できる資金は9,000万円程度あり、「工事費をなんとか1億円程度に抑え、残りを住宅金融支援機構のマンション管理組合向け低利融資で、7~8年償還で調達する計画です」と林さん。

 

現状、スレート屋根部分の老朽化や塗装の劣化・膨張、鉄部塗装の錆びなど、見過ごせない状況になっている部分が多々あるといいます。また、先述の台風21号での被害状況に鑑み、耐風性のアップも視野に入れ、タイルの浮き剥がれのチェック・修理や、外壁、ベランダ、廊下などの防水工事・再塗装といった基本工事のほか、庇上に出っ張っているクーラー室外機置場の落下防止策も実施予定です。さらに、V字翼形の建物形状による北棟のプライバシー向上に向けた目隠し設置なども行えればとの考えを温めているようです。

 

災害時、いちばん大事なものは──

安否確認用のマグネットシートただ、こうした修繕工事で資産価値の維持を図っても、「いざというときはやはり住人力が重要だ」と林さんはいいます。これまで、各戸に「無事です」「救援を求めています」と書かれたマグネットシートを配付し、罹災時に玄関扉に貼り付ければ安否確認がすぐにできるようにしています。また罹災マニュアルづくりにも取り組んでいるといいます。林さんは、「住人間の連携をスムーズにするために、今後は管理組合理事会と自治会の横のつながりの強化が必須」だとし、「災害で自宅避難を強いられる状況になったとき、組合理事長と自治会長がそれぞれ本部長、副本部長として機能する“災害対策本部”を素早く立ち上げられるようにするなど、よりいっそう連携強化を進めていきたい」と話してくれました。

 

「きちんと管理をして、快適に住める100年マンションを目指す」ために取り組んでいるフォルムウイング上賀茂。そこに住む人たちの意思やつながりを継承するための礎が、着々と築かれていることを感じました。

 

 

(※)規約に参加規程が盛り込まれていることから賃借人も含めて全員参加。会費は月500円。 

 

概要(取材年月:2018年10月)
  • 建物名:フォルムウイング上賀茂
  • 所在地:京都府京都市
  • 階数 :地上7階建て
  • 総戸数:70戸
  • 竣工年:1989(平成元)年築
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:(株)東京建物アメニティサポート
  • 総会開催:毎年2月
  • 役員数 :6名
  • 役員任期:2年