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古い団地の課題をすべてクリアした建替え。その成功のポイントとは?(1)

昭和30~40年代の高度経済成長期、各地で盛んに建てられた団地。現在、築40~50年を迎え、躯体や設備の老朽化が問題になっています。建替えを検討する団地も多いのですが、様々な課題がありなかなか前に進めないのが現状です。そこで今回は、建替えを成功させたケースとして、調布富士見町住宅の建替え事例をご紹介します。

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築40年を経た団地に立ちふさがる4つの課題

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駅前の再開発によってますます賑わう京王線「調布」駅から、平たんな道を歩いて約15分。大きなサルスベリの木をシンボルツリーとする、雁行型(がんこうかた)の美しいマンションが目に入ってきます。総戸数331戸の「アトラス調布」。2年前に竣工したばかりの新しいマンションです。

 

このマンションが建つ敷地には、以前「調布富士見町住宅(総戸数176戸)」という団地がありました。アトラス調布はその団地を建替えたもので、老朽化などに伴う様々な問題が生じ、紆余曲折を経て、新しく生まれ変わったのです。では、調布富士見町住宅はなぜ建替えを決意することになったのでしょうか。「それには4つの課題があった」と当時の管理組合副理事長の多田さんはいいます。

 

「1つ目は老朽化です。団地は昭和46年竣工だったため、漏水事故が頻発していました。2つ目は耐震強度不足。旧耐震基準で建てられた建物なので、現在の基準を満たしていないのです。3つ目はバリアフリーの問題。5階建てなのにエレベーターがありません。専有部分にも至るところに段差があって、ある高齢の方は段差を跨げずにお手洗いが間に合わなかった、といった話も聞きました。4つ目の問題は、主に高齢化による管理組合役員のなり手不足です」。

 

 

これら4つの課題を一気に解決できるのは、建物を新しくし、住戸を増やして若い世代の入居者を増やせる建替えしかない、と多田さんは考えたのです。

 

失敗が許されない建替え。検討委員会を組織して事業協力者を決定

説明会とはいえ、初めから「建替えありき」で話を進めたわけではありません。まずは、団地の持つ課題を明確にするため「住宅を考える会」を立ち上げました。住人全員に対して行ったアンケートでは、建替えがいいか大規模修繕にすべきかなどの質問だけでなく、団地のいいところや不満なども自由に書いてもらい、結果「建替えをした方がいい」と考えている人が約7割に及ぶことがはっきりしました。

 

多田さんはそれを受けて、建替え検討委員会を組織。建替えを前提にさらに詳しい住人へのアンケートと、具体的な事業協力者の検討にも入りました。そして、事業協力者を1社に絞って総会に諮り、承認を得たのです。

 

実は、建替えの機運が高まったのにはもう一つの要因がありました。同じ市内にある国領団地が建替えを成功させていたのです。自分たちの団地より少し築年が古く、同規模の団地が建替え──その事実が大きく背中を押したのだそうです。そして、この建替えを請け負ったのが、今回の建替えの事業協力者に選ばれた旭化成不動産レジデンス(株)でした。

 

「団地の建替えには、“一団地の住宅施設”()の規制を外さなければならないという大きな関門があります。旭化成さんはそれを一度成功させている。つまり、すでにマニュアルを持っているわけです。私たち管理組合には〝失敗〟は許されない。旭化成さんを選んだのには、そういう理由がありました」と多田さんはいいます。

 

その後、無事に一団地の住宅施設の廃止、一括建替え決議の成立、建替え組合設立と進み、平成25年には解体工事を着工。建物が竣工したのは平成27年で、住宅を考える会を組織してから、8年あまりが過ぎていました。

建替えにこぎつけた4つのポイントとは?

sokuhou当然反対もあったという建替えが成功したポイントは何だったのでしょうか? 多田さんは4つの要点を挙げてくださいました。

 

1. 小さいことを積み重ねる

住宅を考える会の段階から、説明会などを随時開催。しかし、説明会では質疑応答の際にいつも同じ人が話すことも多く、全員の不安は払しょくできません。そこで、談話室を使ってこまめに茶話会を開催。ここでは建替えの話は一切せず、住人の話をとにかく聞くことに努めたという多田さん。「迷っている方は話すことで整理される。まずは意見を言いやすい環境をつくることが大事だと考えました」。

 

2. 情報はオープンに!スピーディに!

どんな些細な情報でも、今やっていること全てを紙にして出すようにしていたとのこと。市との交渉で、ある認可が下りた際には速報を出しました。多田さんが原稿を書き、出来たところから別の役員が原稿をチェック、急いで印刷へ回して夜中に1軒ずつポスティング……そんな荒業をやってのけたこともあるそうです。

 

 3. 管理組合主導と住人に認識してもらう

事業協力者が決まった後も、説明会などは極力管理組合だけで対応しました。事業協力者が前面に出ると管理組合の顔が見えず、住人は疑心暗鬼になります。「住人の皆さんに私たちのやっていることを信頼してもらうことが大切」と多田さん。

 

 4. 細かいことに丁寧に対処しつつ、前進あるのみ!

事業協力者や市との話し合いや交渉など、やらなければならないことは多岐にわたったそうですが、様々なことに対処しつつも、その場で停滞せずにしっかりと前に進むことが大事だと多田さんはいいます。「建替えに関する私たち管理組合の仕事は〝合意形成〟。それを成功させるには住人一人ひとりの不安や不満を取り除きつつ、とにかく前進することです」と、多田さんは教えてくれました。

 

事業協力者の協力のもと、建替えという大業を成し遂げたアトラス調布。そこには、住人の迷いや不安を払しょくする管理組合の前向きな努力と、決してブレない真摯な姿勢がありました。

 

 

(※)「一団地の住宅施設」とは、都市計画法に都市施設として位置づけされているもので、団地の良好な住環境を維持するために、建ぺい率や容積率を抑える等の規制があるもの。アトラス調布の場合、周辺の容積率は200%であるにも関わらず、同敷地は容積率80%に制限されており、そのままでは総専有面積・総戸数を増やすことができなかった。規制を撤廃するには、建替え後に容積率等が増えたとしても地区計画等に則って良好な住環境が創出されることなどを調布市と協議し、承認される必要がある。

 

☆☆☆

次回は、元からの住人と新しい住人とのコミュニティ形成についてご紹介します。

To Be Continued.

 

概要(取材年月:2017年09月)
  • 建物名:アトラス調布
  • 所在地:東京都調布市
  • 階数 :8階建て・6階建て
  • 総戸数:331戸(うち従来からの住替え住戸105戸)
  • 竣工年:2015(平成27)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:旭化成不動産コミュニティ(株)
  • 総会開催:毎年8月末
  • 役員数 :16名
  • 役員任期:2年(半数改選)