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日本橋人形町の防災を担う 超高層マンションと町会の取り組み

下町情緒あふれる日本橋人形町に、再開発で誕生した超高層マンションがあります。神田祭りの記事でもご紹介したこのマンションが加入する町会では、様々な設備を備えたマンションを中心に、防災にも力を入れています。今回は、マンション居住者と町に暮らす人々が、手を携えて防災活動に取り組む様子をレポートします。

防災・防火

夜間の人口が少なく、防災力に不安があった町が生まれ変わる

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「リガーレ日本橋人形町」は、再開発事業によって建てられた高層マンションです。39階建て335戸という大規模マンションとしては珍しく、マンション単独での自治会が作られておらず地元の人形町一丁目町会に所属しています。前回ご紹介した神田祭に対する町会と管理組合の取り組みだけでなく、防災においても共同で様々な活動を行っています。3年前には、東京消防庁による「第10回 地域の防災防火功労賞」最優秀賞にも選ばれました。

 

地下鉄の路線が交差する人形町は、商業ビルが林立し、昼間は会社員や観光客などでにぎわいますが、夜になると急に人通りが少なくなります。そのため、大規模な災害が発生した場合の地域の防災力が以前から懸念されていたのです。今から20年ほど前、リガーレ日本橋人形町を中心にした人形町の再開発にあたっては、目標のひとつに「安全で安心して暮らせるまち 防災性に優れた空間の創出」がありました。

 

そこで、リガーレ日本橋人形町の設計段階では、まず最新の耐震構造建物とすること、震災時には地元のために防災拠点としての機能を発揮できる設備を備えることを決定しました。屋上に緊急用のヘリポート、地下2階には非常用エレベーターで各階へ貯水を運搬できるように工夫した受水槽を設置。他にも、自家発電設備や居住者用の非常備蓄、各拠点階(1階防災センター、15、20、30、35階)には緊急脱出時等に使う破壊器具等のレスキューキャビネット、また、31の店舗等が入るアネックス棟には町会と合同で使える防災倉庫を備えたのです。

ソフト面にも継続的な取り組み。画期的な防災マニュアルも!

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ハード面としては、当時考えられる限りの設備を備えたリガーレ日本橋人形町。ソフト面への取り組みは、入居直後から現在まで継続的に行われています。まずは、入居1年後に理事会の下部組織として防災委員会を立ち上げました。

その翌年には中央区の支援制度を利用して震災発生時の対策マニュアル「リガーレ日本橋人形町震災時活動マニュアル」を作成。作成にあたっては、居住者の実態を把握するためにアンケートを実施し、昼夜の在宅率、災害時にサポートが必要になる人の割合、居住者のなかに医者や看護師といった専門家がどのくらいいるか、といった詳細な情報も盛り込みました。

また高層棟であるA棟では、5階ごとに設置した拠点階に階別安否情報シートを作成し、それを防災センターで集約。非常時であっても、マンション全体の状況が素早く把握できる仕組みが出来上がっています。

 

さらに、マンション内だけでなく、地域住民とどのような形で連携していくかも具現化していて、当時としては画期的な内容でした。これは中央区の高層マンションとしても初めての取り組みで、高層住宅用マニュアルのモデルケースとなり、区が主体となってプレスリリースや区報を発信し、ほかのマンションにも公表をしました。当時100件余りの管理組合や管理会社等から問い合わせがあったそうです。

 

防災委員会が主催する防災訓練は、年2回行われていますが、そのうちの1回は町会と連携を図るために合同防災訓練となっていて、毎年多くの地域住民が積極的に参加をしているそうです。マニュアルに即したその訓練内容はとても実践的なもので、マンション火災で最も大事だとされる初期消火訓練をはじめ、応急手当の訓練、ベランダの隔て板を蹴破る訓練、エレベーターではなく階段を利用した搬送訓練など、参加者にとって災害時を想像しやすい内容となっていることも特徴です。

先進的な取り組みが、各所から高い評価を受ける

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さらに、災害時要援護者への取り組みも拡大しています。まずは、マンション居住者だけでなく、町会に在住している災害時要援護者の情報も含む「助け合い名簿」を作成。この名簿を活用し、個人情報に十分配慮しつつ安否確認をする訓練なども行いました。また、要援護者の医療情報を把握し、その情報をもとにして関係機関等との情報共有体制の確立を現在進めているところです。

このような取り組みが評価されて、前述した「地域の防災防火功労賞」最優秀賞を受賞するとともに、先進的・効果的な防災への取り組みをしている団体を東京都が認定する「東京防災隣組」にも選ばれました。さらに区からは防災対策に積極的に取り組むマンションとして「中央区防災対策優良マンション」に認定されています。この認定を受けると、区から防災訓練経費の助成(年額上限5万円)や、防災資器材の支給(30万円相当まで)などを受けることができるのです。

人形町で生まれ育ち、この町を愛してやまない管理組合理事長の鈴木さんは、誰よりもこの町の防災について真剣に考えています。町会とマンションとの協働についてうかがうと、「わざわざ協定なんて結ぶ必要もないよね。ここにせっかく丈夫な建物があるんだから、何かのときは避難しに来ればいい。それを受け入れるのは人として当然のことだよね。困ったときはお互いさまでしょう」。そう話す鈴木さんの笑顔が印象的でした。

概要(取材年月:2017年05月)
  • 建物名:リガーレ日本橋人形町
  • 所在地:東京都中央区
  • 階数 :39階建て
  • 総戸数:335戸
  • 竣工年:2007(平成19)年築
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:鹿島建物総合管理(株)
  • 総会開催:6月
  • 役員数 :12名
  • 役員任期:1年(再任を妨げない)