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- 長期修繕計画
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2012年春号
このコーナーでは、4回にわたりそのヒントをアドバイスします。
第1回目は、それをうまく実行することが、管理が上手に行われているマンションとして、外部からも評価される大規模修繕工事についてです。
◆ポイント1 きちんと計画をたてる
まず、大規模修繕工事というプロジェクトを推進する組織を作らなければなりません。管理組合の理事会では、日常管理の問題点の解決に時間を割かれます。そこで、多くの事例では理事会の諮問機関として、専ら大規模修繕に関して検討する専門委員会を組織します。
委員の数や議決の方法、審議事項や理事会への報告義務と予算などを定めた規則を作り、総会で普通決議の承認を経て発足させます。次に、専門委員会で、全体のスケジュールと工事の型式を審議します。
大規模修繕工事は、図(次ページ参照)のように4つの段階があり、各々3~6ヶ月程度の期日を要します。また、工事を行う型式として、発注者と施工者のみの責任施工方式と、第3者の設計監理者が入る設計監理方式があります。
専門委員会でそれぞれについて検討し、委員会案を理事会に報告します。理事会はそれを受け、管理組合総会の議案として提案し、承認を得るように努めます。
◆ポイント2 合意形成を大切に
大規模修繕工事の着工に多くの賛同を得るためには、各区分所有者に修繕の必要性(内容)をよく説明し、理解してもらうことが必要です。
そのためにも、マンションのどこがどの程度傷んでいるか、治すとすればどのように修繕するのか、その説明資料となる建物あるいは設備の劣化調査診断(写真参照)が欠かせません。あわせて、居住者の目から見た不具合の状況や、修繕を希望する箇所、修繕に対する意見を聞くアンケートの実施も、現況の把握に有効です。
また、大規模修繕に対する関心を高めるには、専門委員会や理事会で、それに関し今どのようなことが検討されているのかを広報することも大切です。
そして、例えば調査診断結果の発表会や、大規模修繕工事の内容説明会を開催し、色々な意見を聞き質問に答え、盛り込むべきことがあれば原案を修正し、できるだけ多くの区分所有者の合意が得られるような実施案を作ります。施工者の選考を公正に行い、その過程を充分に説明することも、合意形成の大きな柱となります。
◆ポイント3 資金の裏付けが肝心
大規模修繕プロジェクトが途中で頓挫する原因は、多くの場合資金が得られないことによります。既に長期修繕計画において、大規模修繕工事の費用はその概算金額が試算されています。もし、修繕積立金の残額がそれに届かない場合は、工事を先延ばしにするか、傷みが激しく延ばせない時には、一時金の徴収や借り入れを考えなければなりません。
しかし、現在の厳しい経済情勢では、多額の一時金徴収は新たな未収金の発生を招くだけです。また、借り入れもその返済期間中は次の大規模修繕に向けた資金の積み立てができません。
そんな大変な思いをする前に、来るべき大規模修繕の予想工事費と現状の積立金をにらみ、値上げ改訂が避けられないならば、思い切って積立金額の見直しを検討することが必要となります。いづれにせよ、専門委員会では手持ちの修繕積立金残額を意識しつつ、支出可能な範囲で現実的な工事案を作らねばなりません。
◆ポイント4 管理会社との関係をはっきりさせる
日常管理のパートナーである管理会社を、大規模修繕工事の中でどのように位置づけるか、計画の最初のうちに管理組合として決めておく必要があります。専門委員会の中で意見を出し合い、理事会と協議して集約し、管理会社と打ち合わせを行い希望を聞いて、方針を定めるのがよいでしょう。具体的に管理会社の立ち位置には、次のようなケースが考えられます。
①施工者として工事見積もりに参加する。
日常管理でよくそのマンションを知っており、社内に工事部門があり建設業の免許も得ている会社は、工事見積参加の意思を示す例があります。管理会社1社のみの見積りでは、先に述べた合意形成に難が生ずるため、複数の見積参加会社のあくまで1社という位置づけが大切です。
②設計監理者としてコンサルタント業務の見積に参加する。
施工ではなく、一級建築士事務所として工事の設計監理(調査診断も含む例が多い)業務に名乗りを上げる場合があります。この場合には、工事見積もりと同様にいくつかの設計監理会社のうちの1社と位置づけるのか、それとも従前からの信頼関係に基づいて特命でその会社と随意契約を結ぶのか、管理組合で判断することになります。
③専門委員会や理事会の事務局的役割をになう。
大規模修繕工事の計画や実施中には、通常の日常管理の他に膨大な事務が発生します。委員や理事ではその事務をこなしきれないことが多く、会議の準備や書類の作成に手慣れた管理会社の助力を仰ぐ例も見られます。ただし、この業務はあくまで年間の委託管理業務ではありませんので、もしその業務を依頼する際には、管理会社と改めてその業務の委託契約を結ぶこととなります。
澤田 博一 (Sawada Hirokazu)
設計事務所、マンション管理会社勤務を経て、1987年マンションの建物診断・修繕設計監理・長期修繕計画の作成などを行う建物診断センターを開設、1998年法人化。
一級建築士・宅地建物取引主任者・マンション管理士。
執筆やセミナー講師などの活動他、(財)マンション管理センターの評議員や(社)高層住宅管理業協会の各種委員会委員を務める。